保育所、幼稚園、認定こども園の個人情報の取扱いについて

 個人情報保護、プライバシー保護の重要性が増している昨今ですが、個人情報の保護がなぜ大切なのか、そしてどの情報をどう扱えば、保護していると言えるのか、漏えいした場合の対応など、まだまだ理解に差があります。子どもの個人情報があふれている保育施設が今できることは何か?すぐ対応すべき点と、将来的に対応すべき点を分かりやすく解説します。

この記事を読んでもらいたい方

  • 保育所・幼稚園・認定こども園等で勤務している方、その経営者の方
  • こどもスクールの経営者など、子どもの個人情報を扱う経営者の方
  • 子どもを保育施設に預けている保護者の方
  • 保育所・幼稚園などと取引のある事業者の方
      目次

      保育施設にあふれている個人情報

       個人情報の保護、と単に言えば、社員の意識を高めたり、教育をしたり・・・と思いつく方も多いと思います。しかしこれほど個人情報の保護が叫ばれていながら、何か他人事のようになっている保育施設も少なくありません。なぜでしょうか。
       原因はいくつか考えられますが、保育施設には個人情報があふれているのにも関わらず、①保護すべき個人情報であることを知らない、②共有しないと業務が出来ないので、しょうがないと思い込んでいる、③関与する人が多すぎて、同じ危機意識を共有しづらい(どうしても認識が薄いゾーンが出来てしまう)・・・といったことが考えられます。
       このように、保育施設という特殊な環境がいかに個人情報にあふれ、リスクが多い状況であるか、以下に詳しく記載いたします。

      ①個人情報、プライバシー情報の多い環境

       よくあるのが、保護すべき個人情報が何であるかを知らない職員が多いケースです。この場合、個人情報を保護しているつもりで、していない状況が多いです。プライバシー情報(例えば両親の離婚など)には気を付けているが、子どもの既往症状況(川崎病にかかった等)については、個人情報ではないと思い込んでおり、つい保護者との会話で人に聞かれる場所で話してしまうケースなどが考えられます。コロナウイルス感染症が広がったことで、病歴への配慮をするようになった園も随分多いですが、病歴は「要配慮個人情報」として扱われます。要配慮個人情報は、個人情報保護法第26条において、漏えいや滅失等が1件でも起きると個人情報保護委員会への報告義務があるため、注意が必要です。
       もちろんプライバシー情報は、児童福祉法第18条の22において、秘密保持義務があるため、違反すると保育士登録の取り消しまたは懲役や罰金が科されます。こちらも注意が必要な情報です。こういった、大変センシティブな情報が集まりやすいのが保育施設です。

      ②共有が求められる環境

       また現場で良く聞かれるのが、秘密保持・個人情報といっても、園長しか見られない厳重な所に保管しておくという対応が出来ない、共有しないと業務に差しさわりがある情報ばかりであるのも保育施設特有の環境かと思います。
       共有する際に、保護者に聞かれてしまう、園児が触って誰でも見える状態になってしまう、緊急連絡のメモがはがれてしまう、など物理的な問題を踏まえた上でいかに共有するかが求められるのも保育施設ならではの課題です。

      ③保護者をはじめとした関与する人が多い環境

       保育施設の特有な環境として、「関与者」が多いことも挙げられます。通常であれば、子どもたちだけですが、送迎する保護者またはその家族が入れ替わり立ち入りますし、設備や給食、看護師や調理員、補助者、外部の事務関係者なども行き来します。園によっては、外部より、放課後の習い事の一環として、様々なスクールより先生が来て、教えることもあります。
       保育施設の職員が少し個人情報について意識が高くても、多くの人がかかわる現場では、どうしても個人情報を大切に、秘密保持義務を遵守しようとしても、それが一時的なものであったり、関わっている人全員が同じ危機意識となりにくく、園全体として脆弱な環境となってしまいやすいです。

      保育施設がすぐ対応すべき点

       それでは、保育所、幼稚園、認定こども園が今すぐ対応すべき事とは何でしょうか。挙げればキリがありませんが、すぐ出来ることとして、①ルールを決める、②個人情報の取扱いについて対処している姿勢を見せる、③物理的に持ち出せない環境、体制作りが挙げられます。また、実際に対応している園であっても、必ず半年~1年に1度は組織全体で見直し、必要であれば専門家を含めて、問題がないかを確認することが大切です。

      ①園内での個人情報に関するルールを決める

       園内での個人情報の扱い方、書類の受け渡し、病歴・アレルギー情報、投薬情報、保護者からの連絡や今日会ったトラブルの内容・・・共有すべき内容とその保管場所、共有方法は、事前に色んな世代の先生の意見を基に作り上げることを勧めます。ICTで統一したとしても、機器を扱うことが出来ない職員が紙に記載し紛失してしまう、ICTが得意な職員であっても、センシティブな情報であることを把握していないまま、園だよりがアップされてしまう・・・ある保育施設の失敗例です。
       得意なこと、経験値、それぞれが異なるから分かることを、園の集合知として生かしながらルール作りをしていくことが個人情報の保護にもなり、職員全体の意識作りにもなります。一緒に情報を守る側として、ルールを皆で作成することが意外にも近道であることもあります。

      ②施設内の個人情報の取扱いについての姿勢を伝える

       施設内で個人情報の保護のため、システムを導入し、職員が研修を受け、日々気を配っている・・・なんてことは、保護者は知りません。「最近何だか写真が撮りづらくなったよね~」と単なる保護者への理解がない園となってしまわないように、書類には「個人情報の保護のため」同意を得ております、といった一言を丁寧に記載したり、配布書類にも「お取り扱いにご注意ください」、「撮影はOK、SNS等への投稿は一切禁止」という文言を記載していくことで、子どもの情報を大切に扱ってくれている姿勢が伝わります。

      ③外部には持ち出せない、漏えいしない体制づくり

       一番重要なのは、物理的に持ち出せない、漏えいしない、滅失・紛失しない環境、体制づくりです。保育施設の環境も昔ととは大きく変わり、先生の入れ替わりが多い園もあります。人間関係、勤務体制もぎりぎりで職員のフォローまで追いつかない現場も多いです。そんな中であっても、事故を起こすことが出来ないようにしておく必要があります。
       また、故意に個人情報を第三者に提供した場合、個人情報保護法の改正により、法人は1億円の罰金を科されることとなりました。子どもが好きな職員が多いので、そのような想定をしたくないのも分かりますが、最悪のケースを加味して環境を整えておくためにも、最低限、何よりもまず物理的な持ち出しが出来ない、本人の機器を持ち込ませない環境を作り、規則など明確なルールをもって、職員と認識を共有しましょう。

      時間がかかっても整備していくべき点

        すぐにでも対応すべき点についてまとめましたが、将来的にどのような体制をすべきでしょうか。これについては、正解は施設によって異なります。以下の3つのテーマについて、皆さまの保育施設において出来ることを見つけて、PDCAを回しながら、改善していくことが大切です。

      ①ICTのシステムなどを導入・活用していく

       すぐ導入が難しいという園であっても、ICT化は避けられません。少しずつ、園に合った形で導入し、スタッフ全員が一つのシステムを通して確認しあえる状態にしておきます。園全体で情報を持ち、共有する出来るようにし、いつでも確認できるようクラウドなどに情報を置いて、バックアップやアクセス履歴が分かるようにし、万が一にも備えられるようにしましょう。また、園内でカメラ等を設置する場合、こちらの情報も個人情報となる可能性が高いです。ルールを明確にし、個人情報保護方針などに組み入れ、保護者などへ同意を得るようにします。
       現在、自治体による保育施設向けの補助金やIT補助金等、利用できる補助金があります。ぜひ積極的に活用し、システムで保護する体制を作りましょう。

      ②職員や保育施設に関わる人の教育・監督をする

       どんなにいい設備や体制があっても、活用するのは現場の職員です。職員の皆さんが正確な知識をもって、対応することが何よりも大切です。そのためにも、定期的な職員の研修は必須です。外部の研修を受講したり、専門家を呼んでの園内研修を実施するなど、知識を得る場を設け、職員全体が主体者意識をもって個人情報保護に取り組めるようにすることがポイントです。
       また、出入りする外部職員等、個人情報をやり取りする可能性がある場合、委託先の監督責任が発生します。外部委託先について、適切な委託先選定と情報管理体制の確認等、明確にルール化しましょう。

      ③保護者の意識を高める

       職員だけでなく、保護者向けの研修を実施したり、園の取組を文書でお伝えしましょう。そして、個人情報保護の取組のメンバーの一人として、情報を保護する側になってもらいます。指摘が増えるので保護者向けの研修は実施してほしくないという意見もありますが、保護者とのやり取りや保護者が気づかず漏えいしてしまうことが多いのも事実です。トラブルに発展しないよう、保護者にも知識を持ってもらうことが大切です。

      まとめ

       いかがでしたでしょうか。
       保育所、幼稚園、認定こども園といった保育施設において、個人情報をはじめとするプライバシー情報は、伝えないと事故の元、伝える方法を誤るとトラブルの元となりやすいです。職員だけでなく、保護者や関係者を巻き込んで「いかに守り、いかに共有するか」という視点を持って、ルールを作成していくようにしましょう。
       そして、ルールや体制を作った後も、PDCAを回しながら、①園に合わせたルールに改善する、②漏えい訓練を実施する、などその時の一番いい管理は何か、を考え、更新していける体制を整えておくことが大切です。
       当オフィスでは、個人情報の管理等に関するアドバイスまたは研修、第三者認証取得支援、補助金申請サポートをしております。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談いただければ幸いです。

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